まえがき
これから、皆さんには、約200年前に生まれたフランスの少年に恋をしていただこうと思います。
名前は、エヴァリスト・ガロアといいます。彼は、二十歳の朝、銃による決闘で命を落としました。決闘前夜に書いた遺書には、なんと一編の数学論文でした。そして、その論文で生み出された数学理論は、その後、ガロア理論と呼ばれるようになり、そんな無軌道なガロア少年か、何を夢見て、どのように新しい数学を生み出して行ったのか、その発想に迫って行きます。
ガロアが解いたのは300年も未解決の問題でした。結論だけ言うと、「2次、3次、4次方程式は四則計算と2乗根、3乗根などのべき根をとる操作で必ず解くことができるが、5次以上の方程式ではそうはいかない」ということです。このことを突き止めるために、ガロアは「群論」と呼ばれる全く新しい数学を編み出したのでした。
群とは「動き」や「変化」から生まれる代数学で、「対称性」と深い関係にあります。「対称性」とは、一言で言うと、「動かしても見た目にはわからない」という性質のことですから、「動き」や「変化」と表裏の間柄なのです。ガロアは、n次方程式のn個の解の「区別のつたなさ」を群によって表現し、方程式の解法に接近したのです。
ガロアの群論は、方程式以外でも幅広く役に立ちます。「動き」「変化」「対称性」が関わるものなら何にでも応用できる、といっても過言ではありません。したがって、その後、数学のさまざまな分野に応用されたばかりではなく、他の科学、例えば、物理学、化学、薬学、生命科学、情報科学なでにも応用されるようになりました。
これまでガロア理論の解説書は何冊も刊行されていますが、それらとは大きく異なる次の3点になります。第一に、これまでの本は、「お話だけで終わっている」か「すごく難しい」か、のいずれかだと思いますが、その中間を狙いました。省略を最小限に抑えながらも、できるだけ理論のキモが明快にわかるように工夫するつもりです。例えば、後述の「2次方程式のガロア理論」だけ読めば、急所のアイデアはすぐに納得いただけるでしょう。また、図形の対称操作の群論を使って、とにかく抽象的なガロア理論をイメージ化する予定です。さらに、第二に、数式だけを記述せず、できるだけ言葉によって記述します。群論がガロアの頭の中でどう芽生えたのかを考えることは、数学の外側の作業なので、日常言語が適していると思ったからです。そして第三に、ガロア理論のその後の展開を解説します。基本群に関するポアンカレ予想や被覆空間のガロア理路などで、現代数学へのインパクトをご覧いただきます。
どうぞ、ガロアと、そして数学そのものに恋をしてくたさいませ。
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